引き渡された住宅が欠陥住宅だった場合、業者を相手に裁判で慰謝料を請求できるのでしょうか?
ここでは、欠陥住宅と慰謝料の関係について詳しく解説しています。
まずは、民法における慰謝料の規定を確認してみましょう。
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用元:e-Gov 民法「(財産以外の損害の賠償)第七百十条」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
慰謝料の規定は、民法710条で上記の通りに規定されています。
この条文における身体・財産権以外の損害とは、一般には精神的苦痛を指すと解釈されています。
ただし、いかなる精神的苦痛も慰謝料の対象になるかと言うと、そうではありません。不法行為などの法律違反が原因で精神的苦痛を受けた場合を除き、精神的苦痛が慰謝料の対象になることは基本的にありません。
つまり、たとえ欠陥住宅を引き渡されたとしても、欠陥の性質や原因に法律違反がなければ慰謝料を請求できない、ということです。
不法行為とは、法律で定められている権利・保護されるべき利益を侵害している状態を言います。侵害が故意であるか過失であるかは問われません。不法行為によって精神的苦痛が生じた場合には、基本的に慰謝料の対象となります。
例えば、建築における不法行為の例として違法建築があります。法律に違反して建てられた建築物を引き渡した場合、不法行為に問われ慰謝料の対象になります。
違法建築のほかにも、交通事故や傷害事件、不貞行為(不倫)、DVなども法律違反を前提とした行為なので、不法行為として精神的苦痛を訴えれば慰謝料の対象となります。
建築において、次のような事例を耳にすることがあります。
これらの事例において、施主がある程度の精神的苦痛を被ることもあるでしょう。
しかし、これらの事例は、不法行為には当たりません。なぜならば、どちらも法律違反ではないからです。
例えば、当初の説明よりも仕上げが雑だった事例では、仕上げが雑になった原因は法律違反ではありません。
業者の能力不足などが原因なので、法律違反ではなく契約違反(債務不履行)となります。法律違反でない以上は不法行為を問うこともできず、慰謝料を請求することはできません。
なお工事の不出来については、民法上の立証を前提として、慰謝料ではなく損害賠償を求めることは可能です。
あるいは、基礎のジャンカが多く出来たために基礎工事をやり直したとして工期が送れた場合、遅れの原因は法律違反ではありません。
施工不良による瑕疵担保責任が問われる事例なので、工事のやり直しで業者か瑕疵担保責任を果たした、という結果となります。
なお工期の遅れによって具体的な損害(ローン減税を逃した、など)を被った場合には、その遺失損失分を遅延損害金として請求する権利があります。
慰謝料は、いわゆる迷惑料ではありません。
慰謝料の請求権は、あくまでも不法行為に基づいて法律的に認められた国民の権利です。
一方で、いわゆる迷惑料とは、トラブルのあった当人同士の間で決着を目指す一種の知恵です。法律で認められた権利ではありません。
慰謝料の背景にも迷惑料の背景にも、一定の精神的苦痛が存在することは確かですが、法律で認められた権利かどうかという点で両者は大きく異なるため、混同しないようにしましょう。
迷惑料は当人同士での決めごととなるため、相場があるわけではありません。当人同士が納得できるお金が授受される、というだけです。迷惑をかけたほうが「払いたくない」と思えば払う必要はなく、また迷惑をかけられたほうは強引に支払いを求めることもできません。
たびたび、マスコミでは欠陥住宅が話題に上ることもありますが、欠陥の性質が法律に反していれば、不法行為として業者へ慰謝料を請求することが可能です。
一方で、慰謝料と迷惑料は異なることも理解しておく必要があります。「欠陥住宅によって精神的苦痛を被ったから慰謝料をもらう権利がある」というわけではない点を、改めて理解しておきましょう。